《大阪吃音教室 例会記録》

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・吃音教室2004.12.10・記録
テーマ:自分をしばっている考え方を変える
    論理療法 実践編
担当者:伊藤 伸二(事情により講師交替)
参加者数:29人(内、初参加者2人)
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18:45〜 (司会者)初参加者紹介・参加者近況

19:18〜 (伊藤)先週(論理療法入門編)の復習
・論理療法は、アルバート・エリスが提唱した心理療法で、ABC
 理論とも言う。
・何かの出来事(A)と、それに対する感情、結果(C)との間には、
 考え方(B)が介在していて、(B)が悩みの元である。

・人間の3つの営み、行動、思考、感情のうち、変えやすいもの、
 変えにくいものがある。行動が一番変えやすく、思考が次、感情
 が最も変えにくい。
・心理療法には、この3つそれぞれへのアプローチがある。そのう
 ち、論理療法は思考に働きかけるアプローチ。思考を変えて感情
 に影響を及ぼし、やがて自分の行動を変えようとする。
 それによって、人生の中でサバイバルしていくことを目指す。
・論理療法の人生哲学は「楽しく生きる」ことである。問題を前に
 して、自分がサバイバルするには何を変えれば良いかを考える。

・論理療法では、人間の感情の原点は思考にあると考える。
 そして、ひどい落ち込みという結果(C)があったときには、出来
 事(A)がCに直結するのではなく、必ず考え方(B)がCの原因に
 なっていると考える。
・Bにはその人の人生観、生活信条が影響し、信念になっている。
・出来事(A)が変わってくれれば良い。でも、Aには変わるものも
 変わらぬものもある。

・神学者、ニーバーのことばがある。
 「変えることのできるものについて、それを変える勇気を。変え
 ることのできないものについては、それを受けいれる冷静さを。
 そして、変えることのできるものと、変えることのできないもの
 とを、識別する知恵を。」
・過去と他人は変えられない。出来事(A)のほとんどは変えられな
 いから、ひどい結果(C)が起こったとき、考え方(B)を変えてお
 く。すると自分の態勢が違ったものになるので、次に同じAが起
 こっても、違うCになる。
・こうして、色々な出来事(A)は考え方(B)を再検討するきっかけ
 になる。と言うことは、Aは自分が人生を楽しくサバイバルする
 ことの練習になる。

・アルバート・エリスの3つの「ねばならない」というのがあり、
 これを持っていると人生が不自由になる。
×「私は、常に気持ちよく接してもらわねばならない」
×「社会は、私が欲しいものはすぐ、簡単、確実に与えなければな
 らない」
×「自分はいつも、うまく事を運ばねばならない」
・自分がこんな考え方を持っていないか検討し、そんな考え方があ
 ればそれを柔軟にすることが、論理療法の目標である。

19:45〜 (伊藤)実例で考える論理療法
・参加者の一人が最近聞いた話を、論理療法で扱う実例とする。
<実例>ある女子大の教官が、自分の授業に関する学生からの酷評
 を知り、そのことで大きなショックを受けた。
・論理療法の手続きとして、先ず、出来事(A)と結果(C)を明らか
 にする。それを出来るだけシンプルにし、根本を抽出する。
 出来事(A):学生の評価が低かった
 結果(C):大きなショックを受けた

・非論理的Bを見極める判断基準。
△その考え方が非現実的である
△その考え方に論理的必然性がない
△その考え方が自分の損になる
・論理療法では、正しいか正しくないかを問題にはしない。人生の
 目標は幸せになることで、自分を幸せにするかどうかを判断基準
 にする。非論理的Bだと分かっても、その時の自分にとって得な
 ものである間は、無理に変えようとはしない。

・例の話の教官は、どんなBを持っているのか。(参加者の回答)
○自分が自信を持ってやることは、学生から評価されて当然だ。
○自分のやった授業は、完璧であるはずだ。
○他の同僚に自分が負けるはずがない。
○同僚は自分を馬鹿にしているに違いない。
○こんな教師は、今後授業をすべきではない。
○こんな酷評を受けた自分は最低の教師で、失格だ。

・どんなBに変えれば、この教官は楽になるか。(参加者の回答)
○こんな評価をした学生の質が悪い。
 (これでも気が楽にはなる。)
○これから自分が変わっていくチャンスをもらった。
○(Aの大学で良い評価を得、Bの大学では悪い評価だった場合)
 これで、A大とB大では教え方を工夫すべきだと分かった。
 (この2つの回答は、建設的な対処法につながる。)

20:00〜 休憩

20:10〜 (伊藤)グループに分かれての話合い
・4グループに分かれる。参加者の抱えている問題を尋ねる。
・特に発言がなく、伊藤が用意した題材を元に、各グループでの話
 合いに移る。題材は、吃音者が陥りやすい典型的な4つの文章記
 述。このどこが非論理的で、どう直せば良いかを話合う。

20:30〜 (伊藤)全体の輪に戻っての話合い
・Aグループの報告。
 題材:「吃る人間が精一杯頑張っている時は、周りの人は最大限
 の配慮をすべきである」
○まわりがする配慮に、「最大限」は不必要。
○吃る人が頑張るのは勝手。まわりがそれに同調する必要ない。
・「配慮して欲しい」と「相手は配慮すべきだ」は別。題材の記述
 は、「不当な要求」をしている。

・Bグループの報告。
 題材:「吃る人間は将来苦労するに決まっているから、人とのコ
 ミュニケーションが必要な仕事につくべきではない」
○吃る人が苦労するとは限らない。
○吃る人でも話す仕事についている人は結構いる。
○吃る人こそ、人とコミュニケートする仕事につくと、得である。
・女性吃音者に、「吃音者は販売業に有利」と言う人がいた。彼女
 は吃るから、ことば巧みな販売員のような押し売りをせず、お客
 の好みやニーズを一生懸命に聞くので客に信頼され、優秀な販売
 員となった。また、吃って笑顔でやり過ごすしかない時期を通り
 抜けて自然な笑顔が身に付き、吃音症状はそのままでも、面接で
 必ず合格するようになった。

・Cグループの報告。
 題材:「吃ることでコミュニケーションがうまく行かない吃る人
 が、人間関係がうまく行かないのは当然のことだ」
○このことは、ある場面には当てはまっても別の場面ではそうでは
 ない。うまく行くことも行かないこともある。
○コミュニケーションはことばだけではない。「笑顔は世界のパス
 ポート」とも言う。
○吃音のせいで「誠実だ」と思われ、得をしている。
○吃る人でも人間関係のうまい人、下手な人がいる。非吃音者でも
 人間関係のうまい人、下手な人がいる。
○吃ることで、自分の欠点を認められるようになって、他人の欠点
 も認められるようになった。
・自分に吃音があるため、電話のときなどに人の助けを得る必要が
 出来て、相手にも親切にし、そういう親密な友人を日本中に持つ
 ようになった人がいる。その人は、豊かな人間関係を持てたのは
 吃音のお陰だと言っている。

・Dグループの報告。
 題材:「不況のこの世の中で吃る人が仕事につけないのは、当然
 のことで仕方がない」
○吃るからではなく、吃りを気にするから仕事につけないのではな
 いか。
○自分は吃るから、話さずに済む仕事を探そう。
○不況なのだから、仕事がないのは吃る人だけではない。
○この人は、吃音は就職には不利だという側面しか考えていない。
 自分が好きな仕事、自分の良さを生かす仕事を探そう。
○吃音である自分だからこそ出来る、向いている仕事を探そう。

20:58〜 初参加者感想
○吃音について、普段自分が考えていることが間違っていた。
○今日の話に出たような非論理的な考え方が、自分にはずっとあっ
 た。それが変わればよいと思う。
(その他の参加者)自分の考え方が、他の人と違うと気づいた。

21:05  終了
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