『どもる子どもとの対話 〜ナラティヴ・アプローチがひきだす物語る力〜』読後感想
父との対話
黒田 明志(千葉市立花見川小学校 ことばの教室教員)
 
『どもる子どもとの対話』表紙
 
 2018年12月の「千葉吃音研修会・相談会」で初めて『どもる子どもとの対話』の本を手にし、まずは実家の父と母に郵送しました。それから数日後に父から電話があり、本のお礼を言われました。「一冊しかないからお母さんと取り合いで読んでいるよ」と冗談混じりでしたが、とても喜んでくれました。
 
 まさか父とこんなに話せるようになるとは思いませんでした。幼少の頃から仕事が忙しくて家にはほとんどおらず、たまにいても厳しい父が苦手で避けてばかりいました。25歳の時に実家を出て、28歳で教員になりました。その後も年に一回帰る程度で、こちらからあまり連絡もとらずにいました。
 
 転機となったのは、2016年に全国難聴・言語障害教育研究協議会の全国大会の吃音分科会で実践を発表したことです。その時のことを日本吃音臨床研究会の月刊紙『スタタリング・ナウ』で特集していただき、実家にも送ったのです。そこには、子どもとの対話の様子やその中で私が感じたこと、私自身の吃音のこと、ことばの教室の教員となり悩みながらも紆余曲折何とか過ごしてきたことが書いてありました。数日後父から電話があり、私の文章を毎朝の通勤電車の中で何度も繰り返し読んでいると言われました。
 
 初めて父に認めてもらったような気がして、とても嬉しく感じました。それからは私も今考えたり思っていることを素直に父に話せるようになりました。
 今思うと、『スタタリング・ナウ』のあの文章こそが、私と父との空白の時間を埋める、対話の始まりだったのかもしれません。どもる子どもとの対話を模索していく中で、私自身が自分を語る言葉に出会った、そんな気がしています。
 この本を通し、父との対話がまた増えそうです。
 
日本吃音臨床研究会機関紙『スタタリング・ナウ』2019年1月号掲載
 

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