吃音を持つフレッシュマンへの応援歌
『治すことにこだわらない、吃音とのつき合い方』感想文

西田 逸夫(50代 団体職員)

 
『治すことにこだわらない、吃音とのつき合い方』
 
 「フレッシュマンへの応援歌」というのは、もともと伊藤伸二さんが書いた文章の表題であり、この本の一節のタイトルでもあります。私はこの本を通読して、このことがこの本の重要なメッセージの一つだと感じました。
 
 伊藤さんの前著、『どもりと向き合う・一問一答』が、どもりを持つ子どもたちとその親達への応援歌なら、この本は、これから社会人になろうとする吃音者とその親達、すでに社会に出て吃音のことで困っている成人吃音者への応援歌なのだと思います。
 
吃音者の職業
 私が特にお奨めなのは、この本の第7章、「吃音者の就労と職場生活」です。
 その章に、水町先生が吃音者の職業について調査された表が載っているのです。(P.124)  それによると、調査対象の吃音者 113名中、23名が、教師や営業職という、人と話すことが専門の仕事をしています。この他、自営業、サービス業の 8名を合わせると、3割近い吃音者が、人と話す機会の多い仕事をしていることになります。
 水町先生のところに卒業後の相談に来た高校生に、この表を見せたところ、本人は大いに驚き、吃音のせいで就職に悲観的になる必要がないと気付いたそうです。
 
 「吃音だと就職に不利なのでは?」これは吃音を持つフレッシュマンが、よく持つ不安です。それに対する明快な答が、上で紹介した表です。決して不利ではなく、多くの成人吃音者が、人と接する職業人として日常を過ごしているのです。
 
吃音者のコミュニケート能力
 吃音者が人とコミュニケートする能力は、一般に思われているより、そして吃音者自身がそう思い込んでいるより、ずっと高いのではないでしょうか。
 と言うのも、大阪吃音教室に通う人達には、自分が吃音で困った状況を表現するのが巧みな人が多いのです。話題が吃音のことなので、他の参加者にも伝わりやすいとも言えます。でも、吃音教室以外の場で、非吃音者の人達が自分の抱えている問題を話すのを聞いていると、言葉は滑らかでも問題点をうまく表現出来ない人がどれだけ多いことでしょう。
 
 吃音者だからと言って、人とのコミュニケーションが下手とは限りません。吃音のままでも、立派に人とコミュニケートし、暮らしている人が大勢います。
 
 「吃音は治るもので、治さなければならないものだ」という情報がはびこっている日本で、この本は貴重な存在だし、多くの方に読んで頂きたいと思います。
 
OSP機関紙『新生』2005年04月号掲載