「どもる子どもの親の相談会」(両親教室)

 大阪スタタリングプロジェクトは、日本吃音臨床研究会(JSP)と共同で、「どもる子どもの親の相談会」(旧称「吃音児をもつ親の相談会」)を年に1〜2回開催しています。
 2004年は、5月22日に開催しました。詳しくはこちらをご覧下さい。

 この活動は病院のスピーチセラピストの協力を得て、新聞紙上での公告もあって、毎回多くの吃音児をもつ親が参加されます。1999年の相談会の様子を報告します。


 「吃音児をもつ親の相談会」に参加して

川崎 益彦

 1999年6月27日(日)、大阪市総合医療センターで『吃音児をもつ親の相談会』が開かれた。この相談会は、同じ悩みを持つ親同士が話し合ったり、成人吃音者の体験を通して、親が子どもとどうかかわるかを一緒に考える目的で開催されている。当日は雨模様の天気だったが、15人をこえる母親や父親が参加されて、とても有意義な話し合いがなされた。全体の流れと共に、とくに印象に残ったことを報告します。

小グループでの話し合い
 はじめに全員が集まっての簡単な説明の後、「就学前の子供を持つ親」と「小学生・中学生を持つ親」の2グループに分かれて、それぞれのグループで話し合いがもたれた。私は、伊藤照良さん、総合医療センターの堅田利明さんと共に、就学前グループの話し合いに参加させてもらった。
 子どもさんの年齢は4才から6才で、お母さんが6人、お父さんが一人参加された。順に名前や子どもの年齢、どもりの症状、困っていることなどを話していく。内容は、
  ・今は吃っていても周囲は気にしないが、来年小学校に入ると他児から指摘されたり、いじめられるのではないかと心配。
  ・元々おしゃべりだったのに、どもりがひどくなってからは無口になってしまった。
  ・子どもが「自分だけなんでこんなんなるの」と泣きながら訴えてくる。
  ・友だちから、みんなにどういうふうに説明したらいいか教えて欲しいと言われた。
  ・しばらくはほとんどどもらなかったのに、最近ひどくどもる。
  ・神経質な性格が関係しているのでは。

 お母さんが我が子のことを話すとき、目頭を押さえながら話す人や、感情があふれて声にならない人、泣きながら話す人もいた。他のお母さんも話を聞いていて、自分の子どもにだぶらせているのか一緒に泣いている人もいた。また、
  ・子どもがどもると、親としてつらくなって聞けなくなってしまう。
  ・自分の育て方のせいで、子どものどもりがひどくなったのではないか。
など、自分を責めるような意見も出た。しかし、ここに来られているお母さん方はほとんど堅田さんに子どもを診てもらっている関係で、子どものどもりにどのようにつき合っていったらいいのか、よく理解しておられるように思えた。
 他には、保母さんや学校の先生にどのように説明したらいいかという質問に対して、お母さんどうしでいろいろな意見やアイデアが出された。また、総合医療センターに辿り着くまでハリや灸、祈祷に連れていったなど、多くの人がよく似た経験をしていることが分かり、話が盛り上がった。
 伊藤照良さんや私への質問として、「ことばの言い換えが出来るようになったらもっと楽になるのでは」とか「小さいとき真似をされたりいじめられたか」「いつから話せるようになったか」「子どもがどもって苦しそうなとき、親は目をそらしたほうがいいか」などがあった。

全 体 会
 後半は全員が集まって、堅田さん、伊藤照良さん、伊藤伸二さんの順に話を聞いた。
 堅田さん: 「自分のことを好きな人は?」といった質問から、吃音の問題は、症状ではなく、子供が自己イメージをどう作っていくか、そのために親がどうかかわっていくかが大事で、そのためにはまず両親が自分自身を好きになる必要がある。
 伊藤照良さん: 小さいときから自分が親に心配をかける存在ではないかと思っていた。大学中に吃音を治すように兄から言われて無理して吃音矯正所に通い、数ヶ月間は治ったように見えたが、再発の心配から吃音がどんどんひどくなっていった。症状をどうにかしようとすると本来言いたいことを話せなくなるが、どもってでも話すと相手は分かってくれる。
 伊藤伸二さん: 25年ぶりに島根で再会した大教大時代の教え子は、「どもりがとりえ」と言ってくれた夫の愛と、教師として誠実に生きてきた結果、どもりが軽くなった。だから、どもりをかるくするのは症状に向けた訓練ではなく、つらかったり恥ずかしかったりするけれど、日常生活の中で話すことが言語訓練であり、「表現としてのことば」を使うことが大事で、話し言葉はレッスン不可能だが、声そのものへのアプローチはいくらでも出来る。
 最後に、伊藤さんの指導で「お手てつないで」をレッスンして相談会は終了した。

感 想
 小グループでの話し合いの時、最初、涙ながらに自分の子どもの話をされていたお母さんが、多くの人と素直に話し合い、みんなの話を聞いているうちに、どもって悩んでいるのは自分の子どもや自分だけではない、どもっていてもいいんだと思えてきたのか、だんだんと表情が明るく変わってきた。みんなニコニコしながら「我が子のどもり自慢」をしている。笑いながら「自分の子どもは大声で思いきりどもるんですよ」と。自分の子どものどもりをこのように笑いながら話せる素晴らしさを実感した。そして私自身の子ども時代と比較して、ここにおられる家族をうらやましく思った。
 4時間という長い時間だったが、とても幸せな時間を共有できて本当によかった。